1. システム・状態・入力・出力
制御理論では内部で進化する量、操作できる量、測定できる量を分けます。状態 x は現在値と将来入力から未来を決定できる最小情報、入力 u は操作量、出力 y は測定・利用可能な量です。状態と出力が一致しないことが多いため状態推定が必要になります。
重要ポイント
- 状態はセンサ値と同じではなく、未観測状態も将来予測に必要な場合があります。
- モデルは連続/離散、線形/非線形、決定論/確率論的に分類できます。
- フィードバックでは現在の測定・推定状態に応じて入力を変え、外乱やモデル誤差を補正します。
2. 連続・離散状態空間モデル
LTI 連続系は ẋ=Ax+Bu, y=Cx+Du です。A は内部ダイナミクス、B は入力影響、C は観測、D は直接入力出力経路を表します。離散系は x_{k+1}=Ax_k+Bu_k で、デジタル制御では最終的に離散モデルを扱うことが多いです。
重要ポイント
- u=0 の自然モードは A の固有値で決まります。
- 異なる状態空間実現が同じ入出力伝達関数を表すことがあります。
- 可逆座標変換で状態表現を変えても入出力挙動は変わりません。
3. 平衡点と線形化
実システムは ẋ=f(x,u) のように非線形です。平衡点 (x*,u*) は f(x*,u*)=0 を満たします。その周辺で δx,δu に対して一次 Taylor 展開すると Jacobian から A,B を得て線形化でき、線形制御理論で局所挙動を解析できます。
重要ポイント
- 線形化は局所近似なので、大きく離れると精度が失われます。
- 軌道追従では nominal trajectory に沿って線形化し LTV model を使えます。
- 非線形系の局所安定性を議論する前に平衡点を明示します。
4. 自然応答・固有値・モード
自律線形系 ẋ=Ax の解は x(t)=e^{At}x(0) です。A の固有値がモードの増大・減衰・振動を決めます。連続時間では Re(λ)<0、離散時間では |λ|<1 でモードが減衰します。
重要ポイント
- 固有ベクトルはモード方向、固有値は時間挙動を表します。
- 連続系ではより左の極は速く、虚軸近くは遅く減衰します。
- 固有値が安定でも non-normal 系では大きな過渡増幅が起こる場合があります。
5. 安定性と Lyapunov 解析
安定性は平衡点近傍から始めた軌道の挙動を問います。Lyapunov 安定は近傍に留まり、漸近安定はさらに平衡点へ収束します。V(x) を一般化エネルギーとして、正定かつ軌道に沿って減少すれば安定性を証明できます。LTI では V=x^TPx が典型です。
重要ポイント
- 連続 LTI では A が Hurwitz であることと Lyapunov 方程式の正定値解の存在が対応します。
- Lyapunov 法は非線形系にも拡張でき、軌道の明示解を必要としません。
- 安定であっても遅い、振動的、入力が大きいなど性能が悪いことがあります。
6. 可制御性
可制御性は入力で全状態方向を操作できるかを表します。n 次元 LTI 系では 𝒞=[B,AB,…,A^{n−1}B] の rank が n なら可制御です。不可制御モードの極は状態フィードバックで自由に移動できません。
重要ポイント
- 可制御性は (A,B) の構造的性質で、特定のゲインとは独立です。
- 理論上可制御でも Gramian が悪いと非常に大きな入力エネルギーを要する場合があります。
- 可制御 Gramian は各方向への到達の難しさを定量化します。
7. 可観測性
可観測性は出力履歴から内部状態を再構成できるかを表します。𝒪=[C;CA;…;CA^{n−1}] の rank が n なら可観測です。特に不安定な不可観測モードは測定から見えないまま発散し得るため危険です。
重要ポイント
- 可観測性は A とセンサ配置 C の両方で決まります。
- Detectability は可観測性より弱く、不可観測モードが安定なら許容します。
- 実際の推定精度はノイズや条件数にも依存し、rank 判定だけでは不十分です。
8. 状態フィードバックと極配置
状態フィードバック u=−Kx により閉ループは A−BK になります。(A,B) が可制御なら極を望む位置へ配置できます。ただし制御入力やロバスト性を直接最適化する方法ではなく、速すぎる極配置は大入力を要求します。
重要ポイント
- 極配置は望む極を先に指定し、LQR はコストを指定して最適極を得ます。
- 多入力系では同じ極を実現する K が一意でないことがあります。
- アクチュエータ飽和は理想的な線形閉ループを崩し、性能低下を招きます。
9. LQR:最適状態フィードバック
LQR は無限ホライズン二次コストを最小化して状態フィードバックを決めます。Q は状態偏差、R は入力を罰します。連続時間では Riccati 方程式から P を求め、K=R^{-1}B^TP とします。手動極配置より性能と入力のトレードオフを体系的に扱えます。
重要ポイント
- Q の特定重みを増やすとその状態を強く抑える傾向がありますが、極への影響は結合により単純ではありません。
- R を大きくすると入力を抑え、一般に応答は遅くなります。
- LQR は全状態を仮定し、Kalman filter と組み合わせると標準条件下で LQG になります。
10. オブザーバと Kalman filter
x を直接測れない場合、オブザーバはモデルで予測し、出力残差 y−C x̂ で補正します。Luenberger observer は固定ゲイン L、Kalman filter はプロセスノイズ Q_w と測定ノイズ R_v からゲインを求め、線形 Gaussian 条件下で最小分散推定を行います。
重要ポイント
- オブザーバ極配置は制御極配置の双対で、可観測なら誤差極を配置できます。
- process noise を大きく仮定すると測定を、measurement noise を大きくするとモデルをより信頼します。
- 非線形では EKF、UKF、さらに一般的な分布には particle filter が使われます。
11. 分離原理・参照追従・積分動作
適切な線形系では controller と observer を別々に設計でき、A−BK と A−LC が安定なら observer-based feedback も安定です。これは分離原理です。ゼロへの regulation と非ゼロ reference tracking は異なり、定常偏差を消すには feedforward や積分状態の拡張を使います。
重要ポイント
- 積分状態を追加すると、条件が満たされれば定常追従誤差をゼロへ押し下げられます。
- feedforward は参照に必要な nominal input をモデルから求め、feedback が偏差を補正します。
- feedforward + feedback の考え方は tracking MPC にも現れます。
12. 実用的な制御設計フロー
実用フローは、状態/入力/出力と平衡点定義 → モデル導出/同定 → 離散化 → 安定性・可制御性・可観測性確認 → pole placement/LQR/MPC 選択 → 必要なら observer → 制約・ノイズ・モデル誤差を含むシミュレーション → 実装、です。
重要ポイント
- まず stabilizable かを確認してから最適 K を考えます。
- 状態フィードバック実装前に observable/detectable を確認します。
- 線形二次で制約が重要でなければ LQR、明示制約や未来参照が重要なら MPC が自然です。
この節の要点
このノート後には (A,B,C) から安定性・可制御性・可観測性を説明し、基本状態フィードバックと observer を設計し、LQR/Kalman/MPC の関係を理解できることを目標とします。